【掌編】
□【掌編】十七話
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そんなあたしのお腹のうえに馬乗りになるようにして、鞠和ちゃんが何だかえらく不本意そうに「…………」と無言で乗っかっている。相変わらず、姉とはちがう意味で無口な子である。嫌われてるのかとすら思う、仏頂面。
すぐそばにある鞠和ちゃんの、可愛らしい顔。少女漫画みたいな、おおつぶの輝きが宿った瞳。火傷しちゃいそうな体温。どうも以前も履いていたローラースケートで走っていたらしく、その片方が脱けて転がり、くるくると車輪を空転させている。
アップリケのついた靴下。
「な、何よ――もうっ、危ないじゃないっ」
衝撃から醒めずにしばしぼうっとしてから、あたしは思わず怒鳴っていた。ちいさな子供のやることだ、興奮してはいけないとは思うけど――ほんとに、心臓止まるかと思ったんだから。
けれど鞠和ちゃんはあたしのお腹のうえで礼儀正しく、ぺこりと頭をさげて。
「こんにちは、亡々宮お姉さん」
挨拶してくれた。
いや、その前にこう――謝るとか、せめて、その可愛らしいお尻をどけてくれないかしら? けっこう屈辱的よ?
彼女はいつもの無表情だが、あたしをクッションにしたおかげで怪我などはないらしく、平気そうに降りるとローラースケートを履いて「けんけん」した。