【掌編】

□【掌編】十七話
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 そして、こちらを真っ直ぐに見つめると。

「すみません」

 心底、申し訳なさそうに。

「触ってしまいました、汚いでしょう?」

「…………」

 謝るところが、ちがうわよ。そう思って、あたしは鞠和ちゃんに手を伸ばすとぎゅうううっとちからいっぱい抱きしめた。「ぎゃーっ!?」と姉と同じ悲鳴をあげると、彼女はじたばたと手足を暴れさせる。
 でも所詮は小学生、無意味である。彼女はあたしの背中などを叩いたりして抵抗していたが、やがてぐったりと脱力した。その背中を、汚くないよ、と主張するみたいに撫でることしかできなかった。

 この姉妹の抱えた何か重くておぞましいものを、あたしはほんのわずかも理解していないけれど。あたしといる間ぐらいは、それを忘れてほしいと願うのは、傲慢なのかしら。
 厄介なことに巻きこまれずに、安らぎだけを得て。安全な位置から、ただ餌を与えている。それで優しくしてくれたりとか、笑ってくれたりとか、そんな芸を見せるのをにやにや笑いで眺めている。

 傍観者で、卑怯者のあたし。
 でも、鞠和ちゃんは何だか恥じらうように頬をそめて。きゅ、とちいさなお手々でこちらの制服を握りしめてくれた。生まれて初めて他人に抱きしめられたみたいだった。

 ずっとこうしていたかったけれど、通行人もいないではない――注目されてるというか、「どうしたの? 救急車呼ぶ?」などと言われ始めたので、仕方なく鞠和ちゃんをそっとどけて立ちあがった。
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