【掌編】
□【掌編】十七話
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埃を、ぱんぱんと払って。
長い髪を鬱陶しくよけてから、ちいさな鞠和ちゃんのつむじを見下ろした。
「久しぶりね、『まりりん』ちゃん」
「その渾名で呼んでいいのは、お姉ちゃんだけです――」
何だか照れ隠しのように、ぶっきらぼうに言うと、彼女はランドセルを背負い直した。学校帰りであたしを見つけて、驚かそうとでも思ったのか、突進してきたら止まれず事故ったとかだろうか。小学生っぽいとこあんじゃないの。
「でもあんた、気をつけなさいよ。同じこと車にやったら大惨事よ、そのローラースケートお気に入りみたいだけど――もっと練習してから乗ったら?」
「姉のプレゼントなので。でも、運動は苦手です」
どうもあの冬の一件から、デイジーはことあるごとに鞠和ちゃんにいろいろあげてるみたいだった。
ちなみにだけど、この当時はともかく――現代の鞠和は、鈍そうに見えるんだけど、かなり身体能力が高くなっている。たぶん、〈秘密結社〉じゃ宿の次ぐらいに動けるんじゃないかしら、とまっちゃんを喧嘩でぶっ倒したことあるしね。
彼女がどんな経験をし、何を思い、己を鍛えたのかはわからない。
ともあれこのときのあたしは、そんな彼女の未来を想像もせずに――。
まだ華奢でか弱い子供でしかなかった彼女を、ただ『たまに見かける可愛らしい猫ちゃん』ぐらいにしか思ってなかった、中学生だったのだ。いつだって、危機感がなかった。