【掌編】
□【掌編】十七話
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雑草もぼうぼうで、えらく歩きにくい。ほんとにこんな廃墟みたいなとこに人間が住んでるのか、疑わしいぐらい。ごつごつした地面のうえを走りにくいのか、右に左に傾きながら苦労して進む鞠和ちゃんが、不意に顔をあげて。
子供らしく無邪気に、満面の笑みになった。
「いぬっ♪」
犬?
何だろうかと思った瞬間に、真横から言葉どおりに犬が飛びだしてきた。雑草をかきわけ、野生動物の狩りのように。ぎょっとするほどおおきな、下手をすると鞠和ちゃんよりもでかい大型犬である。セントバーナードだ、和風の屋敷にあまり似合わない。
犬は鞠和ちゃんに体当たりして押し倒すと、顔面をべろべろ舐め回している。食べられてるみたいというか、ちょっといかがわしい。きゃっきゃと騒いでいる珍しい鞠和ちゃんの横で、あたしはふと合点がいって。
確認してみた。
「もしかして、その犬って――」
「えぇ、亡々宮お姉さんもいっしょに選んでくれたんですよね。お姉ちゃんが誕生日プレゼントにくれた、わんちゃんです」
「『いぬ』ってのはもしかして……」
「名前です。お姉ちゃんがつけました」
それは名前じゃないわ、種族名よ。
こんな大型犬、けっこうな値段がしたんじゃないかしら――まぁ、この広い庭ならお散歩には困らないだろうけど、毛並みとかぼさぼさだし、放し飼いじゃなかろうか。