【掌編】
□【掌編】十七話
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でもまぁそろそろ絵面的に犯罪臭すら漂ってきた鞠和ちゃんの懐かれようから見るかぎり、大事にしてはいるようだ。何より、無表情な鞠和ちゃんがこんなふうに笑顔になってる。嬉しかったんだろうな、それならあたしも満足である。
「家のなかにはいれてあげられなくて、可哀想なんですけど――」
「ペット禁止なの?」
「そういうわけじゃないですけど」
鞠和ちゃんは言いづらそうにしてから、『いぬ』とやらから離れて、頭を撫でてあげてから移動を再開する。
『いぬ』はずっと尻尾をふっていた。ちゃんとこの頼りない姉妹を守ってやんのよ。
「こちらです」
面倒になったのかローラースケートを脱いで、靴下を泥だらけにしながら小走りになる鞠和ちゃん。何だか浮き浮きしている気がする。
「機嫌いいじゃない、良いことでもあったの?」
問うと、鞠和ちゃんはばつの悪そうな顔をして。
「えっとまぁ、軍ちゃ――お友達と、近ごろよく喋れるようになって。毎日、楽しいんです。べ、べつに、いつもどおりです」
照れなくてもいいのに。でもまぁ、お友達か――姉のほうとはちがって、鞠和ちゃんはきちんと充実した小学生ライフを楽しんでいるみたい。と信じたい。