【掌編】
□【掌編】十七話
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胡散臭さは全開である。
でも、どこまで踏みこんでいいものかしら。
やがて建物の裏に辿りつく。ここも、そこそこ広い庭になっていて、そこにいかにも屋敷に比べればちいさな長屋があった。古式ゆかしき、背の低くて細長い、何だか使用人の暮らしている感じの物件だ。
そこそこ広いけど、いかにも物置倉庫って感じで。
臭いものに蓋というか、わざわざ家の裏側にこんなもんつくる神経が理解できない。でっかい屋敷なんだから、部屋ぐらい余ってるだろうに。
庶民じみた洗濯物なんかが目立つその長屋の入口に、鞠和ちゃんが靴下のまま歩み寄る。そして、手招きしてくれた。
「ここです――お姉さん、どうぞ」
「って、どういうこと? デイジー、ここにいるの? こないだはふつうに屋敷のなかで寝てたわよね?」
「あのときは、まだお姉ちゃんのお役目が終わってなかったので。普段は、こっちで暮らしてるんです。あのときは特別というか、不測の事態というか」
鞠和ちゃんもよく理解していないのか、『これはこういうことだから』みたいにとくに疑問に思ってない感じだ。異様だなあ、何だか嫌な感じ。
「ただいま」
鞠和ちゃんがちいさく言って、軋む木戸を横滑りに開いた。黴臭いのが、むわっと広がる。うわ、あんまり人間が暮らす環境には見えない。ここも廃墟だ。