【掌編】
□【掌編】十七話
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こんなことがあった。
秋である。
天高く馬肥ゆるなんて言うけれど、あたしは常に食欲不振で体調もよくなく、痩せていて、在籍している坂上田村麻呂中学校の制服もだぶついた。動くたびにすうすうして落ちつかないし、擦れて痛いので、詰めものでもしたいぐらいだったけど。
服のしたは、骸骨みたいな。
そんな女の子だった。
あたしはいつも血色の悪い顔でふらふらしながら、教室の隅っこで窓の外とか、正面の席に座るデイジーばかり見つめていた。退屈な授業ちゅう、かたちは可愛らしいけれど何だか無価値に思える黒板に書かれた平方根を、ひたすら書きうつす無為な作業を片手間にやっていた。
ときおり、目の前の席で完全に授業を受ける気がないのか突っ伏して眠っているデイジーの、呼吸のたびにわずかに揺れる肩とか、髪の毛や、おかしな寝相を眺めながら。
そのころは、まだデイジーはあたしにとって単なるクラスメイトで、愛していたわけじゃなかった――でも、なぜだか気になっていたのだ。
彼女の見た目はあたしの好みど真ん中ってほどでもなく、むしろ男の子っぽいから何となく苦手で、でもだからこそこんなに目で追ってしまうのか、よくわからなくて。
不思議だなあって思いながら、ずっと観察していた。
彼女だけは、平凡で色あせていて、つまらない日常から浮きあがっているようだった。