【掌編】
□【掌編】十七話
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苔むした校門から優雅にでると、外で意外と勤勉なチャラ男が待っていた。
「お嬢〜」
情けなく眉尻をさげて、今日も軽薄なあたしの奴隷は文句を垂れる。
「あんま便利に扱き使わないでくださいよ、ってか授業中でしょう? お父上に怒られちまいますよ?」
「るさい、『お嬢』って呼ぶなつってんでしょうが」
チャラ男のお小言など怖くはない、あたしは軽くその胸を小突いて。
「ってか――いいから言うとおりにしなさいよ、緊急事態なのよ。あんたのボロ車を有効活用してやるから、むしろ感謝しなさいよ」
言いながら、公道に駐めていたら問答無用で撤去されそうなチャラ男の車、その後部座席に乗りこむ。慣れたものだ、あたしは無意味に小綺麗にされた座席のうえで猫のようにごろりと寝そべって、げしげしと蹴りつけてやる。
「あぁっ、ご無体なっ。わかりました、わかりましたから蹴るのやめたげてくださいよぉ――ばらばらになっちゃいますよ、乱暴なんだからなぁ……」
ぶつぶつ言いながら運転席に乗りこみ、チャラ男は無駄に長い前髪を掻きあげて。
「ふっ、まぁたまには授業をサボって未知なるサボりにくりだすのも良い経験でしょう――いやぁ、青春ですね!」