【掌編】
□【掌編】十八話
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そのあと。
けっきょく誠に押し切られ、渋々と秦軍辞を彼女に紹介することになった。
といっても、べつにあいつとは親しいわけでもないんだけど――面倒なことに巻きこまれたら嫌だなぁ、帰りたいなぁ。
などと僕のやる気は極めてなかったのだけど、誠のやつ、口のなかに芳香剤をいっぱいいれてよく噛んで、僕の鼻に「ちゅっ♪」と吐息をそそぎこむ謎の攻撃をしてきたし。その香りにくらくらしている間に、無理やり承諾させられた感じだ。催眠術か、妙な技をもってやがる。
何だか汚された感じで、僕にキスしていいのはあくあだけなのに――と落ちこみながらも、図書室からでて昇降口で下足に履きかえ、どんどん人気のないほうへ進んでいく。
「おぉい」
移動中も本を読んでいる誠が、僕の後ろ髪を引っぱった。
「どこへつれてくつもりだよぉ? どんどん寂れた雰囲気になってるんだけどぉ?」
「このへんに秦軍辞とその仲間の溜まり場があるんだよ――〈アジト〉っていったかな」
億劫に思いながら応えてやる。
うちの中学校は田舎なせいかやたら敷地面積が広く、生徒がほとんど近づかない区画もある。現在は使われていない老朽化した施設や廃校舎などが、生い茂ったまるで原生林みたいな景観のなかに埋没している、辛気くさい場所である。その奥地、未開の大地、とでも呼びたくなるところに〈秘密結社〉の溜まり場はある。
まぁ、僕は行ったことないけどね――あくあが〈秘密結社〉に所属すると聞いて、できるかぎりで調べたことがあるのだ。あいつらの拠点である〈アジト〉についても、場所などはいちおう確認している。