【掌編】
□【掌編】十八話
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冗談でなく、腰が抜けた。
地面にへたりこんだ僕の真上で、びよよよ〜ん、と異音が響く。そして軍辞は空中でいちど跳ねると、また真上に戻っていく。びよんびよん、と上下に間抜けに揺れている。
よく見ると、軍辞の足にはどうも強化ゴムらしいものが縛りつけられていて、その根本はそばに建っている用途不明の廃ビルのようなものから垂らされていた。
バンジージャンプをしていたのだ。
投身自殺かと思ったが、きちんと安全を確保していたらしい――とはいえ、あのまま激突してたらどっちも死んでたぞ、何でこんな場所でバンジーしてんだこいつ。
「あ、あぁ……びっくりしたぁ」
宙を何度も跳ねながら涙声をあげている軍辞を、恐る恐る見あげて、ちゃっかり無事だった誠が僕に呼びかけてくる。
「だいじょうぶか、アヤ? 怪我してない?」
「ひっ――うっ、あうっ……」
僕は思わず誠にしがみつくと、がくがく震える。
「ううあっ――」
「おぉ、よしよし。怖かったんだなぁ、深呼吸しろぉ? もう、だいじょうぶだぞぉ?」
どこか嬉しそうに誠が僕を胸元に抱きこみ、後頭部を撫でてくれる。屈辱的だけど――誠のいいにおいにすこし安心して、僕は涙を堪えて真上の軍辞を睨めあげた。
「お、おまえ! 何してんだ、危ないだろ!?」
だが軍辞もいっぱいいっぱいだ、こっちの声が聞こえていないのか、無限にびよんびよん跳ねまわっているだけで応えられる状況ではない。