【掌編】

□【掌編】十八話
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 どうしたもんか――と、しばし呆然としていると。

「どう!? どんな気分でしたの!? 楽しかったーっ!?」

 軍辞が吊りさげられている建物の屋上から、月吉とまとが顔をだした。彼女に遅れてその血色の三つ編みが「ぴょこんっ☆」と飛びだしてくる。かなり高い位置にいるためいつもよりちいさく見えるとまとに、僕は驚いて呼びかける。

「月吉!? 何してんだそんなとこで?」

「あら、文花さん?」

 とまとは目を丸くすると「風の音でよく聞きとれませんわ――えぇいっ!」と当たり前のように手袋も嵌めずに軍辞を吊した強化ゴムを伝い、滑り降りてきた。映画スタントマンばりのロープアクションである、相変わらず超人的な身体能力だ。
 器用に着地すると、腰に差した日本刀の鞘を高鳴らせて、優雅にお辞儀してくる。

「こんなところでお会いできるとは思っていませんでしたわ――ご機嫌よう♪」

「おい、よくわからんが呑気に挨拶してないで、俺を降ろしてくれ……」

 可哀想に垂れさがったまま、ぐったりしている軍辞に気づいて、とまとが「あらあら」とか言いながら日本刀を抜き打ち一閃。あっさり強化ゴムを切断する。
 ぼたり、と軍辞が地面に落ち、そのまま動かなくなる。

 宙吊りにされるのってけっこう身体に負担がかかるしな、軍辞もそれなりに鍛えてるみたいだけど疲れたのだろう、ぜいぜいと喘いでいる。
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