【掌編】
□【掌編】十八話
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しかし困ったことに、どうも僕はその面倒くさいほう――つまり暗いほうの一派の一員だと思われているふしがあり、その代表格である誠にもわりと仲間扱いされている。廊下ですれちがったときなど、気安く挨拶されるし、捕まって立ち話に付きあわされることもある。
勘弁してほしい。僕はあくあのそばにいられたらいいだけであって、取り巻きどもとお友達になりたいわけではないのだ。むしろ、あくあと僕の幸せ空間を邪魔してくる取り巻きどもは、明暗どちらも絶滅してほしい。地の果てまで去ってほしい。
ともあれ、月吉とまとの屋敷で不本意にも一夜をすごした翌日――ふつうに平日で、僕はもちろんごく当たり前に学校ですごした(ちなみに朝、とまとからは「使用人に車で送迎させますわ」という申し出があったのだが、そんな貴族みたいな登校をしたら僕のなかの何かが崩れる気がして固辞した)。
つつがなく授業を終え、放課後。
諸事情あってふだんは通らない三年生の教室が並ぶ一階を歩いていると、運の悪いことに件の驫木誠に遭遇した。
「おう」
廊下の壁にもたれかかり、暇そうに文庫本をめくっていた誠は、こちらに気づくと何だか凄んでいるような態度で呼びかけてきた。
不機嫌そうに見えるが、こいつはいつもそういう態度だ。
「こんなところで会うなんて珍しいなぁ、アヤ」
他人の名前をちぢめて呼ぶ趣味のある誠は、文庫本に栞を挟みながらこちらに一瞥をくれる。ただでさえ女の子みたいな名前なのに、「アヤ」だけだとさらに酷くなるのでやめてほしいんだけど。