【掌編】
□【掌編】十八話
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ぎゃあぎゃあと女の子たちがしごくどうでもいい口喧嘩を始めたので、僕は呆れながらも、話題の当事者のはずなのに蚊帳の外にいる軍辞を見やった。
「おい、どうすんだこの状況――放置したらどんどんややこしくなるぞ、ギャルゲーの選択肢を選ぶみたいにさっさと判断しろ」
「って言われてもな……」
軍辞としては、思ってもいなかった事態なのだろう、まだ頭がまとまらないみたいだ。
拗ねたように項垂れて、拳を握りしめると。
「今さら、何なんだよ――知るか、と思うよ。でも俺が抜けたせいで野球部に迷惑をかけたんなら、申し訳ねぇし……」
あぁ口が悪いわりに、けっこう善人だなこいつ。僕なら容赦なく断るのに、きちんと野球部との話しあいなんて面倒なだけのイベントについて考慮してやがる。
態度を決めかねている軍辞を、とまとが「きっ」と睨みつける。
「軍辞、嫌なら嫌ってはっきり言っていいんですわよ! 傷ついてまで、ぼろぼろになってまで苦痛と向きあわなくてもいいんです! 傷の舐めあいでも逃避でもいい、それが〈秘密結社〉ですの!」
「ん〜、あたしもほとんど他人事だし、あんま揉めたくないんだけどなぁ」
誠は担いでいた学生鞄をおろすと、なかから何かを取りだした。
それは野球道具――ボールと、グローブである。勉強道具以外のもんがいろいろ入ってるなこいつの鞄、受験生のくせに。
「じゃあ、こうしよう――体育会系の話だしさ、わかりやすくなぁ? 野球部の問題は野球で解決、それがいちばんだろぉ?」
グローブの革のにおいが好きなのか、頬ずりするようにして。