【掌編】
□【掌編】十八話
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前述のとおりこいつは僕を身内と思っているふしがあるので、馴れ馴れしい。
まぁ、あくあの取り巻きは茄后美とか、だいたい同じで、不用意に距離を詰めてくるというか――やたらコミュニケーションをとってくるんだけど。
それとも、一般人というのはみんなそうなのか。
僕のように、用事がない相手とは意地でも会話をしないのが変なのか。
などと思いつつも、誠を視界に捉えたときから顔を伏せ、気づかれないよう注意して移動していた僕は思わず「げっ」という表情を浮かべてしまい、睨まれる。
声をかけられてまで無視するのもどうかと思い、僕は早口で「あぁ、うん。そうだね。今日もいい天気だね。それじゃあ」と言い捨てて逃げようとしたが。
肩を掴まれた。
そのまま、誠に抱きつかれるようにして、こちらの首に腕を回される。首を絞めあげられ、彼女の中学生にしては立派な胸元に顔面を押しつけられる。く、苦しい……。
「おぉい、何だよその態度ぉ。先輩のほうから挨拶してやったのによぉ?」
こいつは体育会系なので、こういう上下関係にうるさい。僕はじたばた藻掻きながら、何とか逃げようとする。気安く話しかけてくるな鬱陶しい、と思ったが口にだしたらこいつは容赦なく殴ってくるので、ぐっと我慢。暴力反対。
「ちょっと図書室に用事があるから、ここを歩いてただけだよ。誠は関係ないだろ、はなせ。あくあ以外に触られたくない、腐る」
「誠『先輩』だろぉ? せめて『さん』をつけろよなぁ――ん〜、ふぅん。図書室? じゃあ、あたしも行くよぉ?」
「え? 何で? 意味がわからない」
「いや、暇だし。いいじゃん、受験勉強しなきゃだし」
誠は言いながら、足下に置かれた学生鞄を爪先で示した。そこにはたしかに、学習参考書なんかが無造作につっこまれている。そっか、三年生は受験だよね。