【掌編】

□【掌編】十八話
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 誠とふたりで図書室に入った。
 校舎の一階――隅っこにあって、こぢんまりとしている。蔵書数はあまり多くなく、ずいぶんむかしの書籍が多くて最近のベストセラーなんかはまるで置いていない。司書の先生もいたりいなかったりで、図書委員もやる気がないのか本の整理もあまり徹底されていない。雑然と、でたらめに、いろんな種類のものが書棚につっこまれている。

 どこか寂しげで混沌としていて、古めかしい――おかげでふだんから利用者はあまりおらず、静かなので僕はそんなに嫌いじゃない。
 本のにおいが好きなのか幸せそうに深呼吸している変態、つまり誠を置き去りにして、僕は目的の本を探す。ガイドブックとか地図とか、そういう旅行に必要な知識を得るためにきたのだ。

 姉がこないだ月吉の屋敷で提案した〈秘密結社〉総出の小旅行――いかにも怪しいし、姉が企画したという時点でどれだけ警戒してもしすぎということはない。僕は事前にできるかぎり情報収集し、準備万端整えて臨むつもりである。
 目的地周辺の地理から、姉が企画しそうなこと――スキーやら温泉やらについても、ひととおり知識を得ておく。地質学やらの、難解な書籍も含めて。

 学校の勉強は嫌いだけど、こういうのを調べるのはわりと好きだ。現実と地続きだから。頭に栄養がそそがれる感じ。
いくつかの本を手に取り、省エネなのかやたら室内が暗いので窓際に寄ると、日差しにページを照らして読んでみる。陽光は本を傷めるのだけど、まぁいいだろう、どうせ最初からぼろぼろだし。

「何を調べてんのぉ?」

 集中して活字を追っていた僕の横に、誠がのこのこと近づいてくると、身体を押しつけるようにして覗きこんでくる。うざい。僕は舌打ちし、密着してくる彼女を「ぐいぐい」と手で押しのける。
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