【掌編】

□【掌編】十八話
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「寄ってくんな、勉強してろ――あるいは死ね」

「え〜」

 どこ吹く風で、誠は僕の罵声を聞き流すと、背の低い本棚に腰をおろした。窓から吹きこむ風でスカートがめくれるけど、ぜんぜん気にしていない。開けっぴろげすぎる。

「勉強なんていつでもできるし、それよりアヤと話したいことがあるんだぁ」

「ここは図書室だ。私語は禁止だ」

「いいじゃん、どうせ誰もいないし――あたし好きなんだよね、こういうふうに放課後、図書室でだらだらと駄弁るの。本も好き、においが好き」

「読めよ。本なんだから。というか、おまえたしか運動部だろうが――外にでて馬鹿みたいに走り回れよ、アウトドアで生きてろよ」

「もう引退してるしぃ。それに、運動部だけどさ――野球部のマネージャーだったし、現役時代もあんまり部活には顔ださずに、ずっとこの図書室から練習とか見てたよぉ。お、噂をすれば、やってるやってる♪」

 窓からは無駄に広い校庭がよく見えて、運動部の連中が汗みずくになって走り回っている。かきぃん、という金属バットの音。声変わりしたての、男の子たちのがらがら声。
 眩しそうにそんな光景を眺め、誠は大声で声援を送る。

「よぉし、がんばれぇ! 冬の寒さに負けんなぁ、ファイトぉ!」

 唐突に声をかけられたというのに、野球部員たちは嬉しそうに「押忍!」と体育会系に応えた。同年代とは思えないぐらい、元気いいなあ。
 目に見えてみんな張りきりだして、わざわざ格好いい捕球をしたり豪快にジャンプしたりしている、誠にいいところ見せたいみたいだ。意外と慕われてるんだなぁ、まぁこれで姉御肌というか、面倒見のいいやつだし。馴れ馴れしいともいうが。
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