【掌編】
□【掌編】十八話
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「あの子、たしか目の病気か何かで退部したんでしょ、なのに無理やり部に戻すってのはそりゃあ――ナンセンスだし。歩けない子を無理やり走らせるようなもんだぁ。でも何かいま野球部が無理やり軍辞くんを退部させたように思われてるんだよねぇ、世間的には」
僕は詳しくないけど、軍辞は野球部と険悪になり、飛びだしたようなかたちになっているらしい。喧嘩をして、三行半を叩きつけた、そんなふうに噂されてるのも知ってる。
「そのせいで野球部、何か空気悪くなってるみたいでさ? 空気悪いの嫌いなんだぁ、あたしは――悪臭ってことだもん」
言いながら、誠はポプリにそっと顔を近づける。指先で胸元をおおきく開くものだから、下着すら垣間見えて、僕は慌てて目を逸らす。どうもこいつは、だらしない。
「だからせめて、喧嘩別れみたいなかたちを解消したいらしくてさ――話しあいの席を設けたいと、何か軍辞くんとやらと仲良かったらしいキャッチャーの子が言ってるんだよ。えぇっと、名前忘れたけど」
「名前ぐらい覚えてやれよ。おまえマネージャーだろ」
「あの子はとくに汗臭くて嫌なんだよなぁ――」
酷いことを言いながらも、誠はルーズソックスの足をぶらぶらさせて。
「でもま、可愛い後輩の頼みだし。あたし部活はサボりっぱなしだったしさ、ちからになってあげたいんだぁ――少しぐらいは。とにかくまぁ、紹介してよ。その軍辞くんて子、悪いようにはしないからさぁ?」
手をあわせて、拝み倒すみたいに。
「ね、ね? いいでしょ、お礼としてあんたの調べものを手伝ってあげるから――これでもあたし、図書室はちょっと詳しいよぉ? どこに生徒がこっそり隠したエロ本が収蔵されてるかとか教えてあげちゃうよぉ?」
「いらないよそんな情報は。だいたい、勉強はしなくていいのか」
「なんくるないさぁ?」
なぜ沖縄弁。