【掌編】
□【掌編】十九話
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ものすごく不機嫌そうな亡々宮美血留である。
「ん、あ、ふあっ――」
麗しい顔貌を歪め、おおきく口を開いて毒蛇のように舌を「ちろちろ」と揺らしてから、彼女は目元をやや幼げに揉む。
「何よもう、ひとが気持ちよく熟睡してるってのにドタバタ騒いでさ――おまけに、なぁに? 神聖にして侵すべからぬあたしの寝床のそばで揉めごとを起こさないでよ、面倒くさい……」
ぶつぶつ言っている美血留は、いつものように和服姿である。
実際、寝起きなのだろう。艶やかな黒髪はあちこち飛び跳ねていて、肩もまろびでているからやけに色っぽい。化粧もしていないのに真っ赤なくちびる。何やら似合わぬおおきなぬいぐるみを抱えていると思ったら、それが「もぞ、もぞ」と不気味に動いた。
「んあ」
美血留が妙な声をあげて、目を丸くすると。
「あら、これ――あったかいと思ったら、ぬいぐるみじゃなくて宿じゃない」
よく見ると、兎のようなぬいぐるみのおでこの部分が刳りぬかれ、そこから可愛らしい女の子の顔が覗いていた。つまり、着ぐるみなのである。目に痛いサーモンピンクの兎の着ぐるみのなかに、人間が収まっていたわけだ。