【掌編】
□【掌編】十九話
12ページ/16ページ
「あ」
唖然とした軍辞の横で、とまとが「あーっ! 何してますの軍辞ーっ!」と騒ぐ。グダグダになってきたが、これで軍辞もアウト。一対一の構図である。
僕が顎で示すと、軍辞は「やれやれ」というように頭を掻いて、ぐったりした誠を担いで戦線離脱。横で、あまりにも気の抜けた勝負に、審判役の美血留さんが「ふはあ」と欠伸をした。何だかなあ……。
軍辞は誠を日陰まで運ぶと、そのへんに腰かけて。
「悪い。でもまぁ、俺の代わりにがんばってくれ――とまと。できれば野球部とは会いたくないし、勝ってくれたほうが嬉しい」
「んもう、ほんと軍辞は役立たずですこと」
とまとは頬を膨らませて、ボールを拾いあげると。
呆れたような口調とは裏腹に、軍辞に頼られたのが嬉しいのか、全身に闘志を充満させて。
「仕方ありませんわねっ、べつに軍辞のためじゃありませんのよ!」
本気で投げてきた。
長い三つ編みが、優雅に舞う。
当たったら死にそうな勢いだったので、僕は咄嗟に避けた。ボールは空気を貫通しながら飛んでいき、金網におおきな音をたてて激突――跳ねかえってきた。