【掌編】

□【掌編】十九話
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「あ」

 唖然とした軍辞の横で、とまとが「あーっ! 何してますの軍辞ーっ!」と騒ぐ。グダグダになってきたが、これで軍辞もアウト。一対一の構図である。

 僕が顎で示すと、軍辞は「やれやれ」というように頭を掻いて、ぐったりした誠を担いで戦線離脱。横で、あまりにも気の抜けた勝負に、審判役の美血留さんが「ふはあ」と欠伸をした。何だかなあ……。

 軍辞は誠を日陰まで運ぶと、そのへんに腰かけて。

「悪い。でもまぁ、俺の代わりにがんばってくれ――とまと。できれば野球部とは会いたくないし、勝ってくれたほうが嬉しい」

「んもう、ほんと軍辞は役立たずですこと」

 とまとは頬を膨らませて、ボールを拾いあげると。

 呆れたような口調とは裏腹に、軍辞に頼られたのが嬉しいのか、全身に闘志を充満させて。

「仕方ありませんわねっ、べつに軍辞のためじゃありませんのよ!」

 本気で投げてきた。

 長い三つ編みが、優雅に舞う。

 当たったら死にそうな勢いだったので、僕は咄嗟に避けた。ボールは空気を貫通しながら飛んでいき、金網におおきな音をたてて激突――跳ねかえってきた。
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