【掌編】
□【掌編】十九話
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すっかり日が暮れて、薄ぼんやりとした校舎のなか。部活動の生徒たちもゆっくり帰り始めていて、どんどん静かになっていく。僕はそんなひとの流れに逆行するようにして、あくあのいる保健室へと向かっていた。
何だか無性に、あくあに会いたかったのだ。いつもとちがうことをしたから、いつもと同じことをして、何だか疲れて乱れてしまっている自分を、元通りにしたかった。
あくあは、保健室に泊まっているように思える。たいてい、行けばそこにいるのだ。あくあは家庭事情にやや問題を抱えているし、学園側も見逃しているみたいだ。行けば必ずそこにあくあがいる、というのは僕にとって安心だった。
居場所がある。ほっとできる空間が必ずある。それだけで、僕は己を保てる。
電灯の消えた廊下の果て――唯一、灯りが漏れている保健室の扉を開く。
「あくあ」
呼びかけながら、入室した。
神殿のような、清浄な雰囲気のなか。あくあは保健室のベッドでぐっすり眠っていた。海のように波打つ髪は放射状に広がり、服も純白の寝間着で、長いまつげが縁取った両目も何もかもお人形めいていた。