【掌編】
□【掌編】十九話
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両手を胸のうえで重ねて、ほんとに棺桶に収納されているみたいだった。まぼろしの花々があくあの周りにちりばめられているようで、僕は何だか近寄りがたい。
同時に、すこし不安になった――あくあがあまりにも屍体のようで、呼吸をしているかどうかも疑わしい。きれいすぎて、生きてないみたいだ。
「あくあ」
そっと、寝床の横に常に置いてある椅子に腰かけて、呼びかける。無理に起こしはしない。あくあはひとより睡眠時間が長いし、必要だ。起きている間も、ずっと保健室で引きこもっていて、何もかもに関わらない。
ほんとに、生きてないみたいだ。あるいは、いつ死んでもいいように、すべての縁を自ら断ち切っているようだ。ふと目を離したら消えてしまいそうで、儚くなって、僕はそっとその頬に触れる。
氷のように冷えた、あくあのほっぺた。
「ん………」
わずかに身じろぎし、あくあが呻いて寝返りを打った。生きている。まだ、あくあはここにいる。
神さまが、あまりにも美しすぎる彼を天国へ持ち帰ってしまう前に、僕はすこしでも多くのものを、あくあに与えたいのだけど。
僕との関わりが、すこしでも重たく絡む糸となって、ふわふわと浮いてどこか遠くへ消えてしまいそうなあくあを――繋ぎとめられたらいいのだけど。