【掌編】
□【掌編】二十話
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それから。
僕は姉の運転する戦争でもできそうな武骨なワゴンの助手席で、ゆらゆらと揺られていた。姉はバイクとか乗り物全般が大好きで、自宅ではよくソファに寝そべって車の情報誌とか眺めていたり、エアガンを磨いていたりする。男性的というか、もうオッサンの趣味だよ。
給料のほとんどをつぎこんでチューニングされたワゴンは運動性が異常によく、ちょっとした段差なら余裕で乗りこえる。たぶん無駄に防弾性能がある分厚い窓硝子越しに、旅行日和の陽光が差しこんでくる。
今日から始まる三連休を利用しての小旅行――姉がどういう思惑でそんなことを企画したのかは不明のままだけど、あの〈秘密結社〉が関わるんだ、絶対ろくなことにならない。嫌だなあ、帰りたいなあ、と思いつつ僕はむっつり押し黙っている。
デス声のパンクな車内音楽が流れるなか、僕はそっと取りだした観光ガイドブックを膝のうえにのせて、眺める。
今回の旅行の目的地は新潟。新潟……。って何があるんだろうか、ガイドブックもかなり薄いんだけど。お米か。お米があるのか。まぁ観光地巡りをするほど〈秘密結社〉は元気な連中でもないだろうし、ちょっと温泉につかって美味しいものを食べて〜、という慰安旅行になるのかな。それならいいけど、嫌な予感しかしない。