【掌編】
□【掌編】二十話
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「まぁ、そんなアクロバティックにあちこち移動したりしないから、安心して。身体が弱い子も多いしね」
僕の心を読んだように、楽しそうに運転していた姉がそんなことを言った。兄妹だと、だいたい何考えてるかわかるのが嫌である。ちなみに姉はいま、通行人をワゴンで轢き倒して間違ったレースゲームみたいな運転をしたいと思っている、はず。やめて。
ハンドルを握るだけでテンションがあがってくるのか、浮き浮きしている姉に、僕は素っ気なく告げる。
「じゃあ、最初から旅行なんてしなければいいんだ――地元で、おとなしくしていればいい。何度も聞くようだけど、姉さん、いったい何でまたこんな旅行なんかするの?」
「まぁ、いいじゃない。文花ちゃんはいつも難しく考えすぎだよ、もっと気楽に人生エンジョイすれば?」
こいつぅ♪ というようにおでこを指でつんと突かれたので、うざい。
はぐらかされて不安を解消できないまま、僕は助手席で身を固くし、シートベルトをぎゅっと締める。自分以外のものに命運を左右される車というのは、落ちつかない。運転してるのが姉というのがまた怖い。