【掌編】

□【掌編】二十話
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 彼女だけがなぜだか制服姿で、たいせつそうに古ぼけたマフラーを巻いている。

 前髪の隙間から目と目があって、なぜだか僕はびくりとして、視線を逸らした。何か、巧く言えないけど、見ていると不安になるやつだ……。

 他の連中もひととおり確認してみる。

 僕も何度か遭遇した、たぶん〈秘密結社〉でいちばんの常識人――秦軍辞は仏頂面で、窓際に頬杖をつき、僕に気づいてしゃくりをあげる。

 彼はけっこうラフな格好をしており、オッサンが着るようなよれよれのコートで防寒している。着ていく服がなくて仕方なく父親の使い古しを着ている感じ。

 何か顔色が悪いけど、あいつ――たぶん、このボロボロの車がものすごく揺れて、車酔いしてるんだろうなあ。ものすごく乗り心地が悪そうだし、無駄に元気なとまとのほうが変である。

 そんな軍辞に酔っぱらって上司に絡むOLさんのようにしなだれかかっているのは、資料によると軍辞の姉――秦哩音だろう。誠とはまた種類のちがう褐色の肌とやたら胸元を強調した格好は、水商売のお姉さんじみている。こっちまで香水の匂いがしてきそうだ。
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