【掌編】
□【掌編】二十話
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彼女は車内が揺れているのをいいことに、やたら弟に密着しては強引に遠ざけられていて、でも何だかそれが嬉しそうだ。変な姉がいる気持ちはわかるので、すこし軍辞に共感する僕である。
車内にいるのは、運転手を除けばそれで全員らしい。う〜む、資料によると〈秘密結社〉にはあと二名ほどメンバーがいるはずだけど。不参加なのか、僕の位置からは見えないだけなのか、よくわからない。
そのまま車は壊れそうな音をたてながら停車し、運転席が開いて、そこから「ひょろり」と誰かが姿を見せた。
中学生だらけの車内では引率の先生にも見える、けれど髪を染めやや流行遅れの格好をだらりと着こなした、ちゃらちゃらした雰囲気の男性である。大人だけど、年齢不詳だ、まだ大学生ぐらいにも見える。
鼻筋の通ったそこそこ美形といえる風貌なのに、何だかいじめられ癖がついてるような、弱気そうな態度である。
こいつはデータにないな――誰なんだ、いったい。
「こんにちは、今日は運転を任せちゃってすみませんねえ」