【掌編】
□【掌編】二十話
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姉が気楽に呼びかけると、男は頭を掻きながら何だか謝っているような様子で。
「や、どうも。ご無沙汰してます。いいっすよ運転ぐらい――どうせ近ごろ、暇なんで」
へらへらと笑っている男に、姉はやや珍しく心配そうに、周りを見回して。
「……ななちゃんは?」
「あ〜、うちのお嬢は旅行の許可をとるために本家に出向してますんで、後で合流する予定ですよ。あれです、うちの本家はやっぱ旅行っつうとどうしてもアレを思いだすみたいで」
「おお、ななちゃんは真面目だなあ。黙ってればいいのに、筋を通しちゃうんだもん。変わってないなあ――」
「お嬢は、学校のほうではどうです? 近ごろ俺、あんまり顔あわせてないんでよく知らないんすけど」
「さぁね、ななちゃん引きこもってるから滅多に会えないんだよねえ、私は嫌われてるし――ま、悠々自適にやってんじゃない?」
ちらりと、姉はボロ車を一瞥して。
「宿の姿が見えないようだけど」
「あぁ、ちょっと追いかけたんですけど逃げられちまって。まぁ、気が向いたらひょっこり顔だすんじゃないすか? もしかしたら、お嬢の護衛をしてくれてるのかもしれないですし」