【掌編】
□【掌編】二十話
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背中をかるく突き飛ばされるかたちで、ボロ車のほうに押しだされる。でも、その程度でめげる僕ではないのである。
「嫌だ、あくあと一緒がいいんだ。っていうか、あくあと姉さんを同じ空間にいさせたくない。あくあが汚れる」
「べつに毒吐きゃしないってば、お姉ちゃんを信用しなさい。それに個人的に、水無月くんとはお話ししたいこともあるしね?」
姉が意味深なことを言う。不安だ……。
「あくあ――」
我ながら親に捨てられた子供みたいな声をあげてみたけど、あくあは美麗に微笑むと、そんな僕に手を伸ばし顔を寄せさせる。
そっと、耳元にくちびるを寄せて。
「今生の別れってわけじゃないんだ、そう寂しがらないでよ。だいじょうぶ、心配しないで。愛してるから」
痺れるようなことを言ってくれる。
一気に腰砕けになって、僕はその場に「ふにゃあ」とへたりこむ。その間に、空気を読まない誠がさっさとあくあごと車椅子を引きずって姉の車へ。
そのまま、ワゴンは素早く出発してしまう。