【掌編】
□【掌編】二十話
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「そんなに旅行が嫌なら、最初から企画しなきゃいいんだ。言いだしっぺは姉さんでしょ、車で事故ったら即行で姉弟の縁を切るよ」
「保護者がいないとだめでしょ、旅行なんて。いちお、あんたら中学生なんだからさ。ふああぁ――」
おおきく口を開き、頭をがしがしと掻いて。
「あんま寝た気がしないなぁ、頭が重い……。文花ちゃん、お姉ちゃんという名の眠り姫におはようのチュウをしてくれる〜?」
「死ね」
「お、いい匂いがする。今朝はオムライスかねえ〜?」
僕の辛辣な言葉を聞き流し、姉はふらふらと台所へ向かってしまう。
学校では王子とか貴公子とか呼ばれてイケメンぶってるくせに、家ではこのようにだらしない。学校のみんなにこの姉のだめな素顔を見せてまわりたい気分だったが、まぁ――どうでもいい。
僕はかるく前傾して柔軟運動をすると、のそのそと寝床から這いでる。
憂鬱である。
今日は、姉の企画した胡散臭い旅行の当日なのだった。
× × ×