【掌編】
□【掌編】二十話
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見知らぬオッサンどもに食事の光景が生中継されるのはうざったいけど、まぁべつに両親も愛情が薄いわけではなく、その示しかたがすこし変なだけだ。もう慣れたし。
「べつに、言いたいことはないけど」
ぼやきながら、僕はきちんと姿勢を正したまま。
「今日は旅行だから、朝ご飯はしっかり食べたかったなぁ」
『カロリーメイトだけでは足りないか。戸棚にプロテインの錠剤があるから呑むといい』
ダディ、人間が何のために味覚をもってると思ってるの。
「文花ちゃん」
姉が見かねたのか、小声で呼びかけてくる。
「朝はかるく口にいれるだけにして、行きの車のなかとか、途中のコンビニで何か買っていこう。私も正直、ちゃんとしたもの食べたいし。せめて牛乳とか珈琲とかないかなぁ、……うわ栄養ドリンクしかない」
冷蔵庫を開きながら、哀しそうな顔をしている。
『史乃、食事に――いいえあらゆることに快楽を求めるものは、いずれ本質を見誤って失敗するわ。教師は常に公明正大でいなくてはいけないのよ?』