【掌編】
□【掌編】二十話
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呆れて見ていると、ふと思いだしたように父が問うてきた。
『そういえば旅行というが、どこへ行くのかね? ちなみに私は香港にいるので、こちらにくるようなら合流できるが』
『わたしはアルゼンチンにいるわ』
「そんなとこには行かないよ。国内だよね?」
姉に問うと、「ひ・み・つ♪」と片目を瞑られた。親が見てなければ惨殺してやるのに。
「まぁ遠くには行かないと思うよ、身体が弱いひとも同行するし――近場を、ちょっとぶらりと廻る程度じゃないかな」
言うと、両親は頷いた。
『うむ、旅行はいいぞ。視野が広がる。とりあえず二十歳までには百カ国ぐらい巡っておきなさい。一回十万円としても、一千万円あればじゅうぶんだ』
じゃあお小遣いくれよ、一千万円。独立してこの家から逃亡するから。
という言葉が口からでかけるのをぐっと我慢する。そんなお金があったら一生ぶんのカロリーメイトを購入されて、生涯それしか食えなくなる。舌が絶望して身投げしてしまう。