【掌編】

□【掌編】一話
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 このプールは工事でもしたのか電気どころかインターネット回線まで通じているので、TVそのものは問題なく電源が入る。ただ、とまとの言うとおりにどこのチャンネルに変えてもノイズが走るだけで、何て無駄な置物なんだ。

「あ、でもゲームとかは置いてあるな。ふつうのプレステに、ドリームキャストに、ファミコン……何で現役じゃないハードばっかり置いてあるんだ」

「さぁ。ゲーム関係はやどちんの持ち物ですし、わたし知りませんわ」

「やどちんって……」

「たまに〈アジト〉で見かけるでしょう? 変な格好をした、ふわふわした髪の毛の、可愛らしい女の子ですわ。って、年上ですけどね――なぁに、ゲームしたいんですの?」

「いや、したいってほどじゃないけど、おまえと二人きりで退屈と戦うのに疲れたから。でもこれ、勝手に使っていいのか? やどちん……宿さんだっけ? あのひとの私物なんだろ?」

「べつに、やどちんは気にしないと思いますけどね。そもそも、彼女にはわたしたちが認識できませんし。何をしようが無反応ですわ」

「だからって勝手に私物を使うのもなぁ……」

「気になるなら、やめておきなさいな。〈秘密結社〉にはルールなどほとんどありませんが、互いの自主性を、尊厳を、領域を侵さないのは暗黙の了解ですわ。わたしたちとは別次元に存在しているみたいな、やどちんだってそれは同じ」

 溜息をつくとまとの横に、軍辞は戻って腰かけると、問いかけた。
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