【掌編】
□【掌編】ニ話
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日中はやはり憂鬱なのだ。
これまでの軍辞には屈託がなかった。他愛ない会話、友人たちとの触れあい、すべて何も考えなくてもひとりでにできた。人生にはおおきな目的があって、すべてはそれを中心にきれいな円環を描いていて、悩みや苦しみすらも己の糧となった。
「…………」
けれど最近は、どうにもぎこちない。
友人たちの態度が前と変わったかどうか、軍辞には判断ができない。たしかに同じように会話をしていた気もするけど、こちらが上手に応えられない。会話が噛みあわず、何度か不快なやりとりをしてしまってから、軍辞はゆるやかに和やかな輪から弾かれた。
いちおう気を遣われてるのか、仲間はずれにされることもないが、グループの隅っこにいる軍辞にはみんな腫れものに触れるような態度だし、話の内容も「○×△」「◆■★」と意味不明に聞こえる。
退屈で、じわじわと不愉快だった。
ふと「あいつはどうしてるのだろう?」と思い浮かべ、ふだんは教室の誰も目を向けない毒ガス地帯――窓際のいちばん後ろの席を見ると。
「…………」
そこで憂奈木鞠和が、腕を枕にして顔を突っ伏して寝ていた。
ぼさぼさの髪でよろわれたその頭部は、身を守る小動物のようにかたくなだ。そのくせ、何だか平和そうである。あるがまま、という雰囲気。
すでに自分の居場所ではないところで、うだうだと残留している軍辞には、すこし羨ましくすらあったけれど。