【掌編】
□【掌編】三話
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「え? え? わかりません、どうしてみんな経験してないの? 人類じゃないの?」
「だってなぁ……」
軍辞は口にしなかったが、当然だと思った。
自分たちはふつうの人々の和やかな輪から弾かれた、憂鬱な中学生である。ふつうの生徒から話しかけられることもないから、青春のイベントの数々にも参加できず、当然――色恋沙汰に発展することもない。
キスにまで辿りつけるわけがないのだ。
「あ、でも」
鞠和がおっかなびっくり手を挙げた。
「人間以外となら……」
「あぁ、ペットにキスするひといますよね。でもそれは別口ですから」
哩音は信じられない、という身振りでみんなを見回した。
「でもね、みなさん! 言わせてください! それは勿体ないですよ? 愛するひとと熱いチュウをしたことがないなんて! とくに愛してないひとと気持ちのいいチュウをしたことがないなんて! 人生を損してますよ――ねぇ、まりりん?」
「あ、あたしに聞かれても」
鞠和は困り顔で、ぶつぶつと。
「あたしもその、好きなひととはしたことないから。い、犬とか、豚とか――む、無理やり。うう、生臭いの、生臭いのぉお」
変なトラウマを掘り当てたらしく、がくがく震える鞠和だった。