【掌編】

□【掌編】四話
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「ねぇ、みっちゃん――わたしね、妹がいるんだ」

 ずっと見つめていた彼女が、やや難解なことを言ったので、あたしは戸惑う。
 在籍する坂上田村麻呂中学校の制服を着たあたしは、当時から伸ばしっぱなしの髪の毛をかきあげて、目の前にいる彼女にそっとつぶやく。

「それはつまり、あなたを『お姉様』って呼んでもいいってこと?」

 期待をこめて尋ねたのだが、彼女は「たまに、みっちゃんの言うことはわからんよ」と呆れたような顔をされた「いや、『たまに』じゃないな、『だいたい』だ」とか。

 失礼しちゃう。

 などと、いちゃいちゃした会話(と信じる)をあたしとしているのは、同じく麻呂中の制服を着た女の子だった。髪染めを失敗したみたいな、まだらに色むらのある茶色の髪。片目だけを隠したような独特の髪型。いつもポケットか手のひらのなかにいる、ちいさなぬいぐるみ――彼女の『王国』の住民たち。

 ふたりで通学路を歩きながら、自宅に帰っている途中。
 かたくなに前を見つめたまま、彼女――憂奈木デイジーはいたずらに、手のなかのぬいぐるみを頬に押し当てている。
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