【掌編】
□【掌編】四話
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「いるんだよ、妹が。最近知ったんだけど、びっくりした。ふつう想像もしないもん、そんなのがいるなんて」
などと、彼女の発言は相変わらず意味がとりにくい。
コミュニケーションに不器用な娘なのだ。
「珍しいわね」
あたしは風にさらわれる髪の毛を、一生懸命に押さえつけながら。
「あなたが、家族の話をするなんて」
「そりゃあね」
デイジーは誇らしげなようでいて、どこか困ったようにつぶやいた。
「わたしが心から家族だと言えるのは、妹――まりりんだけだもの」
「まりりん?」
だから何人なんだ、あなたたちは?
怪訝な顔をすると、デイジーはぬいぐるみをぎゅっと抱きよせて。
「あ、『まりりん』ってのは渾名だかんな――妹はもうちょい、人間らしい名前でさ」
かくして、あたしの人生に、初めてその名前が飛びこんでくる。
「鞠和ってゆーんだ」
マリオ。それも充分に、日本人らしからぬ名前だと思うわよ。
× × ×