【掌編】
□【掌編】五話
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僕は勉強ができない。
友達も少ないし、趣味や夢もない、何も取り柄がない。
「つまり、生きている価値のない駄目人間ってことだね」
天使のような笑顔を浮かべて、悪魔のような暴言を吐いている――緩やかに波打った豊かな髪の毛と、あどけない妖精のような顔立ち、いつも麻呂中の女子制服を着て保健室の窓際に座っているそいつの名前は、水無月あくあ。
触れれば壊れてしまいそうな、非現実感すらある美貌に、とろける笑みを浮かべているが――騙されてはいけない、こいつは虫の足とかをもいでゲラゲラ笑う子供の無邪気さをもつ鬼畜である。
「何か失礼なことを考えてないかい」
誰もいない保健室。並んだ清潔なベッドのひとつに腰かけて、あくあは僕の腕のなかでうたた寝をしている。つまり、僕はこいつを後ろから抱きよせている。ぬいぐるみみたいに。何でそんな愉快な状況になっているかというと、こいつは決してそういうふうには見えないが、誰かと関わっていないと寂しくて死んでしまう甘えん坊だから。
天は二物を与えず、と言うけれど――ひとつ、極端な授かりものを得てしまうと、他のものすべてが奪われる。あくあは、その美貌と引き換えに、その他多くのものを落っことしてしまったようなやつだ。