【掌編】
□【掌編】五話
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僕が支えてあげないと。
あくあは楽しそうに、僕の手のひらに自分のそれを重ねて、それだけだったら可愛いけれど――さっきから僕の爪に指をかけて、引っぺがそうとしている。邪悪だ。
あくあはいわゆる保健室登校なので、こうして触れあえるのは放課後になってからだ。いちおう僕とは同じクラスのはずなのだけど、教室にきているのを見たことはない。
この坂上田村麻呂中学校とかいう、変な名前の学校に入学してから数ヶ月――何の因果かこの奇妙な存在に振りまわされている僕の生活は、それこそ水底に引きずりこまれるみたいに不可思議なものになっている。
それがあんまり嫌でもなく、心地よく思えてきているのは――何でだろうか。
「それはさ、この水無月あくあに、きみがベタ惚れだからさ」
「意味のわからんことを言わないでくれるかな」
「きみのことは、何でもお見通しだよ?」
にっこりと微笑んで、あくあは背後の僕を間近から見あげる。
「この世の中において、わからないことなんて何にもないのだ――だって、おれは名前にQ(疑問)とA(解答)を併せ持つ、知の天使なのだからね」
あ、ちなみに一人称からわかるかもしれないけど。
こいつは男だ。
× × ×