【掌編】
□【掌編】五話
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水無月あくあという名前の可愛らしい悪魔と、あの変人と、どうして僕なんて無個性で平々凡々な人間が出会ったのか――はっきり言って、たまたまだ。不幸な偶然である。隕石に直撃されたみたいなものだ。もちろん、僕が。
僕とこいつの付きあいは長く、いわゆる腐れ縁で、初めて会ったのは小学校の入学式である。一期一会、ひととの縁は大切にしなくちゃいけません。学校の教師はしたり顔で僕らにそう語ったものだけど、腐ったものは捨てるべきじゃないかな。縁であれ何であれ。
ともあれ、水無月あくあと遭遇するまでの僕は他人に注目されることもない、何の特徴もない子供だったから、夢と希望をランドセルといっしょに背負って歩いていたけれど、迷った。僕の数少ない欠点のひとつに、方向音痴がある。
ごく平凡な小学校も、僕にとっては初めて訪れた異国みたいなもので、無意味に何度も土手を駆けあがったり、静かな校舎のなかを無意味に巡ったり、大冒険をする羽目になった。やれやれ、まずは冷静になるべきだな、と農園を歩いたせいで泥だらけになった僕は、とりあえず立ちどまって耳を澄ませてみた。