【掌編】

□【掌編】七話
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『正義の味方になりたい!』とちいさな子供が言ったなら、「夢見がちだなあ、幼いなあ、まだこの社会ってものがよくわかってないんだなあ」などと微笑ましい気持ちになりつつ、頭を撫でてやればいい。場合によっては、一緒に遊んであげてもいいだろう。君が正義の味方で、僕が悪党だ。さあ勝負だ、この世界の未来のために……。

 でも、そんなことを言いだしたのが子供ではなく大人なら、それも実の親なら――どうすればいいのだろうか。口癖のように正義がどうこう、仁義がどうこう、平和が理想が真実がどうこう、努力友情勝利がどうこう……。

 そもさん、正義とは何だろうか。

 たとえば警官は正義で、泥棒は悪だろうか。法律を犯したものは悪で、それを遵守するものは正義なのか。ならば賄賂を受け取り弱者に鞭打つ警官は? 末期ガンを宣告された愛しいひとに優しい嘘をつく善人は偽証罪か?

 つまるところ正義の味方というのは、己の信じる正義――それは世間的にどんなものであってもいい、それに仕え、疑わず、己の人生すべてを捧げる存在だ。それが社会にとって正義でなくてもいい、どうせ統一された理想的な正義の概念などというものはない。
 より正しいもの、より真理に近いものに、信じてついていくしかない。

 己の信じる正義に仕え、騎士として振る舞い、従属する……。

 僕たちの家系は、全員がそうして、自らの正義を見つけ――その味方となった。父は警官になり、母は検事になり、姉は教師になって……。

 僕は、水無月あくあの下僕になったというわけだ。

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