【掌編】

□【掌編】七話
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 僕は勉強ができない。

 教科書を一から十まで読んでも、ひとつ納得するのにえらく時間がかかる。たったひとつの単語の意味を諒解するために、本を何冊も紐解いて、結局わからなかったりする。法則や公式がよくわからず、動物の生態も解剖してもわからなくて、あくあから「馬鹿だなあ、学校のテストはクイズと同じだから、単語を覚えて記入すればいいんだよ。勉強する必要などない」などと聞いてから、やや気楽になったけれど。

 根が心配性で神経質な僕は、目の前に存在するふわふわと曖昧な世界をどうにか把握するために、今日もちまちま本を読む。あくあに言わせると「君は間抜けだなあ、理解しなくても赤ん坊は呼吸をするし、酸素の有毒性などを知ったらむしろ怖くて息を吸ったり吐いたりできなくなるだろ?」とのこと。「ほんとの真理は本には書いてないよ、明文化できないから、君が自分の脳で生産するしかないのさ」とか何とか。

 彼の言葉には引っかかるものがあったが、僕にとってあくあの発言は絶対だし、その通りに単語を覚えてテストの空欄を生めていったらアホみたいに点数があがってしまい、教師に「やる気になったんだなあ!」と褒められた。むしろ逆なのに……。

 僕は大人たちに思春期らしい反感と苛立ちを覚え、同時にあくあへの崇拝を強めた。

 あくあは絶対で、真理で、すべてだ。
 彼にしたがっていよう。
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