【掌編】

□【掌編】七話
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 そんな具合に、僕にとってあくあはこの世の何よりも大切な存在だけど、彼にとっては当然――僕などどうでもいい存在にちがいない。多少は大事に思っていたとしても、交換の利くものだし、僕だけじゃない。

「何をむくれてるんだい。今日もおれの美貌は衰えを知らないのに。ついでに春も爛漫なのに、何を機嫌を損ねることがあるというんだい?」

 黙っていれば可愛らしいのに、あくあはせっかく読書を嗜んでいる僕の真横でぴいちくぱあちく、実にやかましい。かまってもらえなくて寂しいのだろうけど。

 昼休みの保健室だ。僕は健全な学生なのでふだんは普通に授業にでているが、昼休みと放課後はあくあに呼びだされ、ここにくる。あくあはちょっと走ると命に関わるぐらいに病弱なので(元気そうに喋るし声もでかいので忘れがちだが)、ここに常駐しているのだ。

 授業はTV電話(ネット電話?)を通して受けているみたいだけど、基本的に甘えん坊な彼は、何かというと自分の周りにむやみに人間を並べたがる。

 今も彼が常に置物のように寝ころんでいる寝台の周りに、どこから集まってきたのか見たような見ないような女生徒たちが(たまに男子生徒も)集まり、きゃあきゃあと大騒ぎ。あくあに人生相談をしている(悪魔に魂を売る行為だと思う)。

 あくあも楽しそうに「●●さんの良いところは〜」だの「その発言の真意はこうだから、このように反応すれば」などと、その知性を無駄遣いして好きだの嫌いだのという恋バナに花を咲かせてらっしゃる。
 ご苦労さま。
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