【掌編】
□【掌編】八話
2ページ/20ページ
彼女が何でぬいぐるみを持ち歩いてるのか、あたしは知らないし、いちどガラの悪い男子が「不思議ちゃんぶってんじゃねーよ!」とぬいぐるみを取りあげようとしたら、デイジーが爆発したことがある。
怒鳴って暴れて、カッターナイフまで持ちだして、あやうく警察沙汰になるところだった。それからは、みんなデイジーを恐れて遠巻きに眺めるだけになり、けれど不気味なものを排除するために、陰湿ないやがらせのみを繰りかえすようになった。
彼女がいま頭を預けている机に、「臭い」「キモい」「何で学校きてるの?」「シネ、ぬいぐるみ女」などと書かれていることを、あたしは知っている。
色々と思うところあって、あたしがじっと彼女を見つめていると――デイジーが視線を察したみたいに、ぴくりと顔をあげる。
目と目があった。
じろじろ見ているのが、ばれた。
あたしは何だかはだかを見られたような羞恥心に襲われて、曖昧な笑みを浮かべると、視線を前に戻した。なにやってんだか。
「五人一組で班をつくるんだぜ!」
びっくりする。目の前に、プリン何とかさんが立っていて「聞いてた? ななちゃん、暑いからってぼうっとしてると変質者に襲われちゃうぞ?」とか意味不明のことを言っている。
見ると教室のなかはざわつき、がやがやと、立ちあがったり声をかえあったりと騒がしい。班決め、ね。憂鬱だわ。あたし、そういうのでは必ず余りものになるからなあ……。