【掌編】
□【掌編】九話
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あたしは基本的に引きこもり属性だし、ここは自宅からびみょうに遠いので滅多にきたことはない。欲しいものがあったらパシリ=チャラ男に買いに行かせるし。
うう、と呻きながら、チャラ男が長い前髪を指先でいじくっている。
「うちの親が苦労して俺を大学卒業させてくれたのは、こんな子供にいじめられるためではなかったはず――父ちゃん母ちゃんごめん、俺はやくざな商売に身を染めてます……」
「何よ不満でもあんの解雇するわよ。いいじゃない、普通の会社ならとっくの昔に『息が臭い』『何かうざい』とか言われてクビになってるはずよ、あんたみたいなゴミは」
ストレス発散に車の天井などをがつんがつん殴ったら、チャラ男が「やめて! ミカエルちゃんは幸薄い俺の人生にたったひとつ輝く希望なの!」とくねくねしながら騒いでいる。面白いなぁ。
などと適当にいつもの行為をしつつ、車窓から周りを見回してみる。
「待ちあわせ場所は、このあたりだったと思うけど――」
きょろきょろしてから、あたしは「あ」と気づいて車窓から顔をだす(*危険)。
商店街の半ばほどに目立つ噴水がある。近所にある城をつくった余った材料でできているという曰わくつきで、燃え落ちた城とちがってこちらは現存している。あまり日本的ではない、女神などが苦悶の表情を浮かべながらまとわりついている塔が真ん中にあり、何でもいいからコインを三枚、投げいれると願いが叶うとか何とか。