【掌編】
□【掌編】九話
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観光名所だし目立つから待ちあわせ場所にもよく用いられていて、かなり人混みがすごい。群衆から少し離れ、居心地悪そうに何度も時計を確認している女の子がいる。
緋旅さんだ。
近ごろ知りあったこの背の高い女の子は、言いかたは悪いけど『もっさりした』感じの普段着で、けれど異様なことに腕時計を右に七本、左に三本も巻きつけている。それでも足りない、と言わんばかりに髪留めもいつもどおり本物の時計なのに、ときどき噴水の頂点につけられた丸時計に視線を向けている。
わりと目立つ風貌だから、ときどき子供や観光客が不躾な視線を向けていて、そのたびに内気な緋旅さんは俯いてもじもじ。
見てられなくて、あたしは「降ろして」とチャラ男に命じる。
「噴水のそばまで行きますよ、通行人は蹴散らします」
「馬鹿、車で登場なんてお嬢さまっぽいことはしたくないのよ」
「つまんないプライドですねぇ。そういうとこ、ご両親に似てますよ」
ぐ、とチャラ男なんかの言葉に核心をつかれて、あたしは呻く。金持ちであることを露骨に隠す両親――逆に不自然で、奥底の虚栄心が見え見えの、成金思考。あたしも、それと同じなのかしら。
思うとむかついたので、あたしは車の扉をがんがん蹴りつけて。
「るっさいわね、さっさと降ろさないとこのポンコツ破壊して出て行くわよ」
「やめて! 何の抵抗もできないものをいたぶって楽しいですか、この吸血鬼!」