【掌編】
□【掌編】十話
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もちろん軍辞が触れていたのは犬の背中である。このマーキュリーという名のドーベルマンはかなりの猛犬なので、起きているときに迂闊に触ると手首を持っていかれかねないのだ……。
でも軍辞も人並みに動物が好きなので、ずっとその毛皮に触れてみたいと思っていたのである。
さしもの野獣も眠っている間は無防備だ、されるがままになっている。その体温を手のひらに感じ、やわらかな手触りにだんだんと、軍辞まで眠くなってきた。
「むにゅ……」
ついでに体温が低いっぽい美血留が暖かさを求めるように、軍辞の手のひらにそっと頭を寄せる。びくっとしたが、無理に振り払ったら起こしてしまうかもしれない。
「むにゃむにゃ、まだ吸いつくせないよう……」
「何だその寝言は」
さすが吸血鬼と言っていいのかどうなのか。
ともあれ、いつも比較的に冷ややかな表情のことが多い美血留が、かんぜんに弛緩して子供みたいにすやすや眠っているのは、なんだか可愛らしくすらあった。
ついその頭を撫でてしまい、犬とはまたちがった手触りに驚きつつ、軍辞もリラックスする。
欠伸がでた。本格的に眠くなってきた。今日は難しい授業が多くて頭も疲れている。ちょっと一休みしよう、と思って壁に背中を預け、目を閉じる。
そのまま、熟睡してしまった。
× × ×