【掌編】

□【掌編】十一話
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 肩を揉んでいる。

 私立坂上田村麻呂中学校、通称『麻呂中』の隅っこ――前人未踏の地のような茂みの奥にある〈アジト〉の地下である。
 正体不明の小部屋がいくつも並ぶその最奥、〈秘密結社〉の一員である美血留が監禁されている地下ボイラー室にて、軍辞は仏頂面をしていた。

 今日、いつものように放課後――そのまま帰るか〈アジト〉に寄るかどうしようかと考えつつ下駄箱を開いたら、可愛らしい封筒に丸文字で【前からずっと大好きでした★放課後、体育館裏にきてください♪軍辞さんのことが大好きな年下の女の子より◆】という怪しすぎる手紙があったので、あんまり期待せずに、暇だったので行くだけ行ってみたら美血留だった。

 どうもみんなが授業を受けてるうちに、こっそり下駄箱まできて封筒を仕込んだらしい。軍辞とは比べものにならないぐらい暇なひとである。ひとしきり「やーいやーい、騙された〜! 年下の女の子だと思った!? あたしよ!」と爆笑する美血留に、面倒くさいなあ、と思いながら「わあ、びっくりした」という態度をとってやるなど。

 上機嫌な彼女につれられ、そのまま彼女の住み処へ――「無駄なことをしたら疲れたわ、肩揉んで」などと理不尽なことを言う彼女の命じるままに、扱き使われている。

 不気味で、何を考えてるか正直わからないひとだが、こうしてふざけたお遊び感覚とはいえかまってくれるのは――近ごろ、諸事情あってクラスメイトなどからやや爪弾きになってる身の上としては、悔しいがすこし癒される。
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