【掌編】
□【掌編】十一話
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「あっ、痛っ」
ぼんやりしていたら、美血留が悲鳴をあげた。
今日も暗色の和服をあだっぽく身につけた彼女の肩はひんやりしていて、骨も薄くて肉もほとんどなく、変な表現だが、プラスチックの人形みたいだ。
「すんません」
いちおう謝ってみると、こっちの表情が暗いのを察したか、美血留は無理しておどけるように。
「んもう、女の子はもっと優しく扱わないとモテないぞ?」
「女の『子』?」
「何か文句でもあるの?」
「……いえ……その……すんません……」
予想以上にマジ顔&平坦な声だったので、思わず敬語で謝る軍辞だった。美血留は子供っぽく両足を前に伸ばし、気持ちよさそうに猫みたいな笑顔で。
「ん〜、まぁいいわ。今日のあたしは機嫌がいいから、失言くらいゆるしてあげる。一生怨むけど……」
ゆるしてないじゃん。
思ったが、こうして美血留とスキンシップをするのは、それなりに心地よい時間だった。
錆の浮いた鉄パイプだらけの、けれど可愛らしい小物や生活用品が並んだ、この不思議なボイラー室で。異国のお姫さまのような、浮世離れした年上の女性とふたりきり。
男友達とはしゃいでるときとはちがう、家族といるときともちがう、どこか神聖な儀式のようだ。美血留の、びっくりするほど長い黒髪を眺めつつ、軍辞はそんなことを思う。