【掌編】
□【掌編】十一話
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まぁ、正確にいえば完全に『ふたりきり』ではなく、ずっと軍辞の後ろで美血留の忠実な番犬であるマーキュリーがぐるぐる唸りながら『お嬢に何か変な真似したらワシが噛み殺したるけん覚悟しとけやボケが』みたいな態度でいるので、相変わらず怖いなこの犬……。
「けど、今日はいったい何の用事っすか? あんな手紙までつかって俺を呼びだして――」
殺人的な猛犬の視線を感じつつ、軍辞が問うと。
「や、あの手紙はただのお遊びだったのだけど、……迷惑だった?」
何だか可愛らしく、すこし哀しそうに小首を傾げられたので、何をされてもゆるしてしまえそうだ。この年上のきれいな女のひとは、たまに子供っぽい。
「いいじゃない、用事なんてなくても――どうせあなたも暇でしょ? あたしね、軍辞くん、あなたのことが好きなの」
どきっとしたが、いわゆる男女間の恋愛とかではなくて。
「あたし、とまっちゃんのこと笑えないぐらい男のひと苦手なんだけど。あなたは、不思議とね、怖くないの。どうしてかしら……?」
「たぶん、俺は姉貴がいるから、年上の女のひととの付きあいかたが少しわかるんじゃないでしょうか――いや知らんけど」
「うふふ、あまり仲良くすると、鞠和に怒られちゃうかもだけどね」
その親しげな口調が気になり、ついでに何だか熱を孕んだような妙な会話を切りかえたくて、軍辞は踏みこんだ。