【掌編】
□【掌編】十二話
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でも、なぜだかこの娘の頼みは断れない。善意100%のようだし、こうして誰かとスキンシップをとることは、最近すこし悩みを抱えている軍辞には必要なことだった。
しばし穏やかな時間がつづいたが――。
不意に、誰かの足音が静かな〈アジト〉に響いた。
軍辞はびくんと反応したが、鞠和が「あ、やどちん」と言ったので安堵する。
見ると、相変わらずこっちを認識してないらしい(鞠和のことは見えるらしいが)不可思議な外国人の少女――宿が、こちらを一瞥し、けれどすぐに興味をなくしたように建物の隅っこへ歩いていく。
いつもファンタジー世界の住民のような雰囲気の先輩だが、今回はそのものずばり、妖精みたいな格好をしている。わりと寒い季節なのに舞台衣装なのだろうか、銀ラメの光沢がある薄手のワンピースにセロファンでつくられた蝶々の羽根、おでこからは先端に『☆』がついた触角もどきのカチューシャ。
ふつうの人間がやったらドン引きな見た目だが、彼女には何だか似合っていた。
「そういえば」
何だか眠くなりながらも、間をもたせるために軍辞はつぶやいた。
「あの先輩も生活が謎だよな」
生活拠点が学校の農園のなかにある(ついでに罠などが仕掛けられている)ことは、こないだ確認したが。あの農園でつくった野菜などで自給自足してるのだろうか。