【掌編】
□【掌編】十二話
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「あぁいう衣装とか、どこで手にいれてるんだろ。どっかから勝手に取ってきてんのかな」
「あたし知ってるよ〜」
鞠和が気楽に言ってのけた。
「ん、でも教えていいんだっけ――これ。でも、まぁいいか、べつに口止めされてるわけじゃないし、せっかくだしね」
鞠和は「はい、お終い」と丁寧に軍辞の耳などをウェットティッシュで拭いてから、幸せそうにとろんとした表情。軍辞はすこし名残惜しく思いつつも、身体を起こして「サンキュ」と礼を言った。
「えへ」
何とも嬉しそうに、だらしない笑みを浮かべて――鞠和は立ちあがるとこちらに手を伸ばしてくる。
「じゃ、行こ。ちょうど、やどちんの衣装が増えるのはこの時期だし、運が良ければその瞬間に立ち会えるかもよ?」
珍獣の貴重な出産シーンの観測みたいな言いかただが、まぁいい、どうせ暇だ。思って鞠和の手をとり、起こしてもらって、照れくさくてすぐに放した。鞠和はちょっと寂しそうに、指先をにぎにぎしていたが、じょうろで自生した花に水をあげている宿を見ながら「……☆」と自分の手のひらを、頬に押し当てて何だか満足そうだ。
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